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東京高等裁判所 昭和52年(ネ)2222号 判決 1978年5月30日

控訴人

アサヒゴーシヨウ株式会社

右代表者

高橋慈孚

右訴訟代理人

中山吉弘

被控訴人

東京信用保証協会

右代表者

田中猛

右訴訟代理人

成富安信

外五名

主文

原判決を取消す。

被控訴人の請求を棄却する。

訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。

事実《省略》

理由

一東京地方裁判所が控訴人の申立により訴外村岡秀俊の所有に属した原判決添付別紙物件目録記載(一)、(二)の各不動産(以下、本件不動産という。)につき任意競売手続を開始し(同庁昭和四九年(ケ)第八三一号事件)、右不動産を競売の結果昭和五〇年一二月八日その売却代金につき原判決添付別紙第一売却代金交付計算書を作成した事実は、当事者間に争いがない。

二そこで、右売却代金計算書に被控訴人が主張するような過誤があるかどうかについて判断する。

(一)  右村岡が訴外東京施設工業株式会社(以下、東京施設工業という。)と訴外株式会社協和銀行(以下、協和銀行という。)との銀行取引により東京施設工業が負担すべき債務を担保するため、昭和四六年四月二六日協和銀行に対して連帯保証をし、次いで同四七年四月一七日本件不動産に極度額を金一、〇〇〇万円とする根抵当権を設定し、同年五月一七日その旨の登記手続を経由したこと、協和銀行は東京施設工業に対し、(イ)、同四六年一二月九日金一五〇万円、(ロ)、同四七年四月二五日金五〇〇万円、(ハ)、同年一二月二八日金三〇〇万円を、いずれも遅延損害金年一八パーセントとするなど被控訴人主張の約定で貸与したこと、被控訴人は東京施設工業が右(イ)、(ロ)、(ハ)の各金員の貸与(以下、本件(イ)、(ロ)、(ハ)の貸金債権という。)を受けるに当り同社から各保証の委託を受けて承諾し、協和銀行に対し被控訴人主張のとおり右各債務につき連帯保証をしたこと、ところが東京施設工業は同四八年六月二七日本件の各借受金につき期限の利益を失い、本件根抵当権については同年七月三一日その被担保債権の元本が確定し、同年九月二九日その旨の登記手続がなされたこと、そこで保証人である被控訴人は同四八年一〇月九日協和銀行に対し本件(イ)の貸金債権の残元金九五万円、本件(ロ)の貸金債権の残元金三八一万円及びこれに対する同年七月二五日から同年八月一〇日までの遅延損害金一万四、一九六円、本件(ハ)の貸金債権の残元金一四八万六、九一五円及び残元金一五〇万円に対する同年六月二八日から同年七月六日まで、残元金一四八万六、九一五円に対する同月七日から同年八月一〇日までの遅延損害金一万四、三六四円、以上合計金六二七万五、四七五円を代位弁済し、同年一〇月九日前記根抵当権及びその被担保債権の移転登記手続を経由したこと、その後東京施設工業が被控訴人に対し本件(イ)の貸金債権につき金四万円、同(ロ)の貸金債権につき金一二万円、同(ハ)の貸金債権につき金四万円を弁済したこと、以上の事実は、いずれも当事者間に争いがない。

(二)  次に、東京施設工業が被控訴人に対し本件(ハ)の貸金債権につき保証の委託をするに際し保証人兼物上保証人である村岡が被控訴人との間において、(イ)被控訴人が東京施設工業に代つて保証債務の弁済をしたときは民法第五〇一条第五号の規定にかかわらず、村岡は被控訴人に対し代位弁済金全額の求償に応ずるものとし、被控訴人はその求償権の範囲内で協和銀行に代位し、同銀行が本件不動産につき有していた根抵当権その他の権利全部を行使することができること及び(ロ)村岡は右求償元金(代位弁済金)に対しては民法第四四二条第二項の規定にかかわらず年18.25パーセントの割合による遅延損害金を被控訴人に支払う旨の各特約(以下、前者を本件(イ)の特約、後者を本件(ロ)の特約という。)をした事実は、当事者間に争いがなく成立に争いのない<証拠>を総合すると、被控訴人が本件(イ)、(ロ)の貸金債権についての保証委託を受けた際、村岡との間において「保証人たる村岡は東京施設工業の被控訴人に対する求償債務について東京施設工業と連帯して弁済の責に任ずるものとする。村岡は保証債務を弁済しても被控訴人に対し求償権を有しないものとする。」旨(以下、本件(ハ)の特約という。)及び「被控訴人は村岡に対し右求償権の残高に対し年18.25パーセント以内の割合による損害金を徴収することができる。」旨(以下、本件(ニ)の特約という。)の約定をした事実を認めることができるが、右求償権担保のため本件不動産に抵当権を設定したことも、前記根抵当権の一部譲渡を受けた事実も認めるに足りる証拠は存しない。

(三)  そこで、右各特約の点について検討する。本件(ハ)の特約は、求償権者たる被控訴人と保証人たる村岡との間において、被控訴人が保証人としての債務を弁済した場合村岡がその求償債務につき東京施設工業と連帯して保証債務を負担すべきこと及び被控訴人の負担部分が存しないことを定めたものであつて、被控訴人の求償権及びその代位の範囲第三者との関係を定めたものではないと解するほかはない。問題となるのは、本件(イ)、(ロ)及び(ニ)の特約であるが、民法第五〇一条第五号、第四四二条第二項の各規定は、いずれも任意規定であるから、保証人間に締結された代位に関する特約、求償債務につき法定利率よりも高率の遅延損害金に関する特約も、当事者間において有効であることはいうまでもないが、保証人と抵当不動産の後順位抵当権者、第三取得者など右不動産の利害関係人に対しては、右特約をもつて対抗することはできないものと解するのが相当である。けだし、保証人は弁済によつて当然債権者に代位するものではあるが、その代位権を行使できる債権の範囲は、民法第五〇一条本文によつて同法第四五九条第二項、第四四二条による求償権の範囲を越えてはならず、その担保として行使できる抵当権の効力の及ぶ範囲も同法第五〇一条の限度に止るものであるから、右のような代位に関する特約及び遅延損害金に関する特約(求償債権担保のための抵当権設定もないのであるから、その遅延損害金についての登記も存しない。)に、第三者である利害関係人が拘束されるいわれがないからである。もつとも、信用保証協会は、中小企業者等が銀行その他の金融機関から貸付を受けるについてその貸金債務を保証することを主たる業務として設立された特殊な法人であつて、その業務の特殊性からして保証人等に対し代位弁済金の全額につき求償及び代位を認める必要が存するとして、保証委託者等との間に右のような各種の特約をなしているところから、信用保証協会による保証の特殊性を強調し、利害関係人に対してもその特約の効力を認むべしとする見解も存するが、信用保証協会による保証に右のような特殊性があるからといつて直ちに一般の場合と別異に解すべき法律上の根拠は見当らない。なお、利害関係人は被担保債権の限度内で根抵当権全部を行使されることを甘受すべき立場にあるから、右のような特約によつて何らの不利益も存しないことを論拠として、右の結論に反対する見解も存するが、かかる見解は、代位の対象となる債権と求償権とが全く別個の債権であることを看過、混同したものであつて、当裁判所の賛同できないところである。

(四)  そうすると、被控訴人は、協和銀行に対し保証人としてした前示代位弁済により、本件根抵当権の被担保債権者として保証人兼物上保証人である村岡に対し、右代位弁済金六二七万五、四七五円から既に弁済を受けた金二〇万円を控除した金六〇七万五、四七五円及びこれに対する代位弁済の日である昭和四八年一〇月九日から完済に至るまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金債権を取得したが、控訴人に対する関係において主張できる債権額は、結局、法定の求償権の範囲内で頭割りによる金員、すなわち右代位弁済金の二分の一である金三〇三万七、七三八円及びこれに対する代位弁済の日である昭和四八年一〇月九日から本件配当期日である同五〇年一二月九日まで前示利率の割合による遅延損害金三九万五、四八八円であるから、原判決添付第一売却代金交付計算書には、被控訴人主張のような過誤は存しない。<後略>

(岡本元夫 貞家克己 長久保武)

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